伝統技術の継承

代、正倉院文書で「装潢」と呼ばれた表具、表装の技術は、仏教伝来に始まり、平安時代の装飾経、密教文化、鎌倉時代の禅文化を経て、室町、安土桃山時代の茶の湯の発展、隆盛とともに築き上げられました。それだけ長い歴史のなかで、時代の審判を受けながら培われた技術ですから、当然、一朝一夕で簡単に克服できるような安易なものではありません。

私どもの使命は、いにしえから今日まで営々と伝わってきた文化財を修理することによって、さらに次の時代に伝えられるようにすることです。それだけでなく、次の時代でも再び修理できるような、きめ細かな配慮も要求されます。そこで、つとめて、施工結果がわかっている旧来の技法を修得し、用いるわけです。

厳しい徒弟制度のもと、新入社員は住込みで、掃除、糊炊き、雑用と下積作業を積みながら、伝統の技術を学び、受け継いでいきます。一人前になるには、およそ10年もかかります。

材料についても同様で、古糊などは、10年ほど前に炊いたものを使用します。大寒に苦労しながら炊いた糊は、壺の中で寝かされ、ちょうどその新人が一人前になった頃に、ようやく使えるようになるのです。

裂や糸染めも、昔ながらの植物性染料(草木染)で行っています。表具の取合せの点では、堅牢度にすぐれた科学染料の方が良いかもしれませんが、裂がどう変化していくか、本紙にどんな影響を及ぼすか・・・・などを考えると、やはり草木染の方がはるかに安心できます。それに何よりも、古い本紙には草木染の方がしっくりとなじみ、趣や味わいも表現しやすいようです。

また、糊盆、刷毛、箆などの道具類も「職人歌合絵」に登場する経師、表具師のそれと比べると、現在のものとさほど変わっていないようです。伝統の長さ、重さを痛感せずにはいられません。


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